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インタビュー | いせ辰 「春仕度小物歳の市」≪全2回≫ | « Main

インタビュー いせ辰 春仕度小物歳の市に寄せて  その2(最終回)

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所 在 地:東京都台東区谷中2-18-9
電  話 :03-3823-1453
ファックス   03-3823-1458
営業時間:10:0018:00
定 休 日:なし

-いせ辰の歴史と江戸千代紙のことがよくわかりました。では、実際に千代紙を見ながら絵柄について教えてください。

今回は新春をイメージしていますので新年に飾っていただけるような縁起のいいものばかり集めています。

-まず、これ(図1)は「寿」という字がたくさん集めてあるようですが。

1 百寿(朱色)

  これは百寿(ひゃくじゅ)といいます。

2-1 百寿とっくりとかりがね文様の化粧箱

 書家が書いた「寿」のさまざまな書体に目を留めた版元が千代紙に仕立てたのではないかといわれています。書体はすべて違いますが、全部「寿」という文字です。「寿」文字というだけでもおめでたいのですが、実はもうひとつ縁起の良い意味が隠されています。文字を数えてもらえばわかるのですが、いせ辰の江戸千代紙「百寿」は「寿」の字が百字はなく九十八字にしてあります。





2-2 かりがね文様

 これは百という満願で満たされきってしまうよりも、満願に向かう幸せな状態が永く続くようにとの祈りをこめているからです。控え目に九十八文字をデザインした江戸庶民の知恵といえるでしょう。

 これで贈り物を包装したり、のし袋としてお使いいただくのもよいですし、米寿、喜寿などご家族のお祝いの席などにお飾りになると良い柄です。

-この化粧箱の文様(図2-1)はなんですか。

 これは「かりがね」ですね。かりがね(図2-2)というのは連隊を組んで飛んでいく雁のことです。当店では結びかりがねと呼んでいます。くるっと巻いていますが、人と人との縁を結ぶ、「願」と「雁」を懸けて願を結ぶという縁起を担いでいます。

-この「百寿」は赤色で摺られていますが(図3)。色のバリエーションがあるのですか。

3 百寿(赤色)

 浮世絵というのは作者があるので、できるだけ原画に即してもしくは絵師の意向に沿った色を作るのですけど、千代紙というのはより庶民に近いものですからその時代に合わせた色や人気のある色に変えることができます。で、この千代紙は一番最初にあった色が何色だったかというのははっきりわかりませんし、この色で作れという指示があったかどうかというのもわかりません。ただ、昔のものは朱色系が多かったようです。赤い色もあったかもしれませんし、もっと違う色もあったかもしれません。今回新版にしましたので改めて赤い色を摺ってみました。

赤という色はいせ辰が非常にこだわった色でして、目指す赤は、ちょっとどす黒いけれどもぎらぎらしたような赤なんですね。そういう色を使ってくれというのは五代目もずっと言っていますが、この色がなかなか出せない。出せないのでこの百寿の赤がいせ辰の赤だとはいえないのですが、赤に関しては非常なこだわりがあります。いせ辰といえば赤ですが、赤色の色出しには大変苦労します。なかなかその赤は出せません。というのも手作りですし、顔料が違っていたり職人の技量の問題とか時間の問題もありますので難しいです。

-サイズというのに決まりがあるのですか。

今の寸法でいうと約53センチ×39.4センチが奉書の全版で柾一判といいます。百寿の千代紙は柾一判の半分の大きさで大錦版というサイズです。

-版木はなにでできているのですか。

 版木は桜の一枚板でできていて、芯の硬い部分を使うので一本の大木から取れる大きさには限界があります。昔はもっと楽だったかもしれませんが、今は材料を手に入れるのが難しくなっています。

 この世界というのはどの部分をとっても後継者がいないとか材料が手に入りにくいとかでなかなか難しい部分が増えてきています。たとえば版木もそうですし、紙もそうですし、たとえ材料が入っても彫る人、絵を描く人、摺る人はどうかというとこれもまたなかなか難しい状況です。

-紙はどこで作っているのですか。

 浮世絵などは福井県の越前奉書が有名ですが、当店は伊予奉書を取り寄せて摺っています。いせ辰の千代紙は四代目の意向で伊予奉書が多いです。しかし、伊予奉書でも作り手が少なくなっています。今のところは主に伊予奉書を使用していますが、一番理想的な仕上がりを基準に考えたら今の時代は産地にこだわらずいろんな紙に目をむけるようにしています。今店頭にならんでいる千代紙の中には産地の異なるものもあります。

-絵具というのは何でできているのですか。

顔料に膠またはアラビアゴムなどの色どめの材料を入れて水と練る。昔どういうものを使っていたのかはっきりとは分からないのですが、今は化学的な絵具を使っています。ただ、墨だけは昔ながらの墨です。絵具の素材自体が今と昔とでは違います。

-これは新しく直した版木を使っているんですね。版木というのはどれくらいもつんですか。

 木の密度が高ければ硬いし、密度が低ければやわらかい。やわらかければ磨り減るのも早いです。木版画は絵具を付けるときに馬の毛でできたブラシで絵具を広げるのですが、それは版木をブラシでこすっている状態ですので一回摺れば一回ブラシが当たることになります。その作業を繰り返すうちに次第に磨り減ってゆくわけです。

また顔料の粒子が細かければ磨り減りにくいし荒ければ磨り減ってしまうということもあります。同じ千代紙を仕上げるのに5回ブラシを当てる人と10回当てる人がいるとするとそれでも減り具合が変わってしまう。その他にもいろいろな場合がありますので版木のもちは一定ではありません。

しかし、版木は直すことができます。磨り減って際(きわ)がなだらかになってしまうと柄がはっきり出ないのですが、サンドペーパーのようなもので表面を削って、刃を入れ直すわけです。そうすると版木が使えるようになります。

版木の厚みはだいたい3センチ弱で、その絵をもういらない、磨り減ってしまった、という場合には版木屋さんに出してかんなをかけてもらいます。そうすると薄くなりますけど平の使える状態になります。古いものでは5ミリくらいの厚みの版木もあります。そこまで薄くなっても桜の木はもちます。売れない柄だと版木としても残りません。削って別の柄を彫りますので。

-版木屋という専門業者があるんですか。

 昔ながらの木版画専門の版木屋は東京では途絶えました。現在は非常に手に入りづらくなっております。

-木ですから気候によって状態が変わるのでは。

 版元が版木を求めたときその版木はすでに何年も寝かしたものだったそうです。十分干して枯れた状態、木の狂いを出すだけ出させた上で仕上げのかんなをかけるとまっすぐな狂いのない版木ができます。

地墨の板だけは特別で一番いいものを使います。地墨というのは基準の線になってこれが狂いやすい木ですと、その次に入れる色の版が合わなくなります。そんな訳で地墨の版木にはより密度の高い硬い版木を使います。昔は地墨用の版と色板は変えていたそうです。

-次に宝船の絵について教えてください。

4 宝船(川鍋曉斎)

これ(図4)は川鍋暁斎という江戸の末期から明治の頃の浮世絵師の絵を復刻させていただきました。初代と川鍋と交流がありまして、1995年に復刻したものです。いせ辰は縁起ものを扱っていまして、江戸の文化を受け継ぐ縁起のいいものを取り上げて作っています。江戸時代、正月の風物で宝船売りというのが市中を売り歩きしていたそうです。四代目のころにはまだその風習が残っており、宝船の絵を買って正月二日の夜に枕の下に敷いていい夢を見る祈願をしたということです。

-一家に一枚ということではなくて、それぞれが一枚一枚使ったということなんでしょうか。

  そうですね。でもここでご紹介している宝船はさすがに枕の下に敷く方はいらっしゃいませんが。この絵にはおうちの中に飾るときにも飾り方があって、へさきを家の中に向ける。ともが扉のほうあるように飾っていただくと福が内の中に呼び込めるわけです。間違っても出口に向けてお飾りにならないようご注意ください。宝の船が出て行ってしまいます(笑)。

-書いてある文句も面白いですね。

 そうですね。ここには「やまやまもねむりさましていこうらんけさふくかぜのはるのいりふね(山々も眠り醒まして行こうらん、今朝吹く風の春の入船)」と書いてありますが、一般的には回文、上から読んでも下から読んでも同じ歌が書いてありまして、「なかきよのとをのねふりのみなめざめなみのりふねのをとのよきかな(長き夜の遠の眠りの皆目ざめ波乗り船の音の良きかな)」がよく書かれています。この歌がよく使われます。

5 宝船

 これ(図5)も宝船の絵ですが別の歌が書かれています。「よろこびによろこびかさね歓喜天つもる宝はね積み算用」。これは昭和47年のねずみ年のときに交流のありました絵師の方に描いていただいたものです。ねずみの宝舟です。二股にわかれた大根で子孫繁栄を表し縁起がいい。白大根というのは春の七草として食べることで精気を取り入れることができて、ねずみの好物とされている。波がお金でできていたり絵にいろんなおめでたいものがこめられています。

-これ(図6)は千社札のようですが。

6 子年 正月飾り(福)

これは五代目の発案で干支にちなんだ絵柄で卯年から作り始めて来年の子年で十作目となります。何か干支のもので今の時代にあった飾り方ができないものだろうか。お飾り、門松にしてもなかなか飾りにくかったり大げさなことしないという方が増えていますので。そんなこともあってこの千社札は額に入れて室内飾りにされる方が多いです。

新作はデザインから版木からすべて調達してきて作らねばならないので大変なんですが、デザインとして残っても残らなくても挑戦するという気持ちがあります。

「残るものを作るにはその下積みになるデザインがもっと必要なんだ」という新しいものをつくらなくちゃならないという四代目の意気込みが五代目にもあります。

-この背景に描かれている模様にはなにか意味があるのですか。

 これは宝尽くしの紋です。吉祥とされる物を集めてあります。分銅、丁字、方勝文です。宝尽くしとされる文様にはその他、宝珠、七宝、宝巻、隠れ蓑、打出の小槌、巾着、隠れ笠などなどあり、この千社札の中にも巾着、打出の小槌が描かれています。

-いろんな文様が隠れているんですね。

 ねずみが着ている着物の柄ですが、赤い方は「麻の葉文様」、青い方は「紗綾形(さやがた)文様」といいます。麻の葉というのも縁起の良い柄で、赤ちゃんの産着やお年寄りの肌着にも使われます。丈夫で長持ち。赤ちゃんが丈夫ですくすくと成長するようにとかお年寄りが健康でいられるようにという意味があります。紗綾形は卍(まんじ)を模様にしたもの。昔は慶事の礼装用に使用されていた柄です。

-こちらのおもちゃの柄の千代紙(図7)にもなにか文様が描かれていますか。

7 おもちゃ十二支

 この犬張子のこの文様がなにを意味していると思いますか。

8 犬張子 松葉文様

これは松葉なんです(図8)。松葉を意味しています。

松葉というのは常に緑色であること、松竹梅の一番であることから縁起がいいということで使われています。当店で作っている犬張子にはそのほかにも縁起のいい柄が側面にもついています。


-ゴッホの「タンギー爺さん」という絵の中にいせ辰さんのデザインが描かれているという話がありますが、いつかお尋ねしようと思っていたのですが。

9 ゴッホ「タンギー爺さん」

タンギー爺さん
(部分)

 ここです。ほとんど残っていなくて現物は山口県の美術館が持っています。図録でしかみたことがなく、当店でも資料として保管のないものでした。2001年山口きらら博開催記念特別展「ゴッホと浮世絵タンギー爺さん」が開催されたときにわかったことです。

 三代目のころに特にペーパーナプキンを輸出していましたので、外国に出るというのは考えられることですので。

-大きな謎が解けてよかったです。12月20日からの丸の内本店での「春仕度小物市」についてひとことお願いします。

  今回の展覧会ではいせ辰の積み重ねてきたデザインと新しいチャレンジの両方をご覧に入れることができるようなものにしたいと思っています。ご期待ください。

-ありがとうございました

丸の内本店 

いせ辰2008 春仕度小物歳の市~干支張子 名入れ実演のご案内

丸の内本店 4F文具イベントスペース

2007 1220日(水)~1230日(土)

11 002000<入場無料>

来年の干支ねずみの張子にお名前・招福の縁起文字をお入れします。(無料)

来る2008年は子歳。ねずみは五穀豊穣の縁起物。

新しい年が豊かな一年になりますよう招福の干支張り子はいかがでしょう。会場ではお買い上げの張り子に職人による名入れのサービスを行います。益々の幸運を祈願する世界でたった一つの張り子は、新年のお飾り・お世話になっている方への贈り物に最適です。


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