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インタビュー | 松岡佑子さん≪全2回≫ | « Main

「ハリーポッターと死の秘宝」翻訳者 松岡佑子さん インタビュー第2回

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松岡 佑子(まつおか ゆうこ)

  同時通訳者、翻訳家。国際基督教大学(ICU)卒、モントレー国際大学院大学(MIIS)国際政治学修士。AIIC(国際会議通訳者協会)会員。ICU卒業後、海外技術者研修協会常勤通訳。上智大学講師、MIIS客員教授として通訳教育の経験も深い。国際労働機関(ILO)では1981年以来年次総会の通訳。
 ハリー・ポッターの翻訳者として講演も多く、エッセイストとしても活躍中。日本ペンクラブ会員。ハリー・ポッターシリーズに続く翻訳にジュリア・ゴールディング著「サイレンの秘密」(静山社)がある。
 亡夫の意志を継ぎ、日本ALS協会を支援して、2006年ALS国際会議を横浜で開催した。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)
静山社ホームページ

-外国に今お住まいだということもあるし、ハリー・ポッターそのものは何十ヶ国語にも翻訳されてということで、いろんな出版社から出ています。外国の出版社とか書店から学んだことはありますか。そもそも交流とか対話はあるんでしょうか。

 個人的にあちこちのハリー・ポッターの出版社を訪ねて、編集者や翻訳者と話をしています。それをシリーズでうちのファンの雑誌に載せているんですけどね。そうやってお会いするたびに、やはりむこうの編集者もプロだなと思います。本を作ることに情熱を燃やしている人たちです。そのプロフェッショナリズムに出会うとうれしいですね。真剣に本を作っているんだな、と。

 日本の書店は優れていますよ。店員さんたちもきめ細かいですし、ディスプレイもきれいですし、外国に比べても優れていると思います。

-松岡さんは英語で生業を立てていらっしゃるんですが、大切にされていることはなんですか。

 語学を武器にして生業を立てるのも、そうじゃないもので生業を立てるのも共通して言えるのは、常に勉強して努力して、向上していかなきゃいけないということかしら。基礎的な常識がなきゃいけないということです。何も英語ができるからといって常識を無視してもいいということではないし、努力を怠っていいということでもないんです。何かで生業を立てるのには、そう並たいていのことではないと思うんです。これは自由業でなくサラリーマンでも同じであると思います。

私は通訳としても、自分の技術だけで生きてきた人間です。常に勉強して常に向上していかないと、みんなが競争している世界ですからね。努力しないと、すぐに落ちてしまうという世界だったんで、厳しい世界に生きてきたわけです。翻訳、通訳についていえば、通訳の場合は即座にいろんなことを言わなければならないし、翻訳の場合は何日も何日も練らなければならないという、時間的な差はありますが、両方とも基礎的な英語力と日本語力、両方がなければいけませんし、両方の世界の常識がなければなりません。常に努力をしていかねばならないことでは同じです。

 今は通訳をする時間がないんですけども、私は小さな会社を持っていまして、通訳の仲間と仕事とを結びつける仕事しています。クライアントの意見を聞いたり、通訳からクライアントにこうして欲しいという要望を伝えたりして、両者を結びつける仕事を今も続けています。

いい通訳というのはやはり常に勉強しています。時間に遅れずに仕事に行くとか、クライアントに対する態度もきちっとした人たちですね。私は英語ができますよ、と自慢するような態度はしません。英語ができたからって別にどうってことないですから。基本的な人間としてのマナーと、常に向上する気持ちが必要であるということは、通訳でも翻訳でも、そのほかの職業で同じだと思います。

-私も実は英語をやってきた人間で英語で苦しんだんです。勉強しなくちゃと思っていても、怠けてなかなか勉強できません。

好きなことはみんな違うんで、みんながみんな語学の方に能力があるとは限りませんし、無理をして自分が気が進まないところで努力するよりは、本当に自分が好きなところで努力するほうが伸びると思います。

-外国語のベースがあってさらに目利きができないとこの仕事というのは成り立たないと思うのですが、その感性というのはどんなふうに養うことができるんでしょうか。

 「目利き」というのは確かにあると思います。それは経験に裏打ちされた知識、知恵だと思いますけどね。ただ私は、「目利き」というのは結果論じゃないかと思うんです。結果的に何か成功したとか注目された場合に、それを選んだ人が「目利き」だ、というふうに言われてしまうんだと思うんです。というのは、私自身が「目利き」だと思っていないからです。

ハリー・ポッターを読んで面白いと思いましたが、自分がそれに対する感性があったとは思いません。もしも結果論で「感性があったからだ」とか、「目利き」だったといわれるとするならば、多分小さいときにたくさん本を読んで、そういうジャンルの児童書の古典といわれるものをずいぶん読んで、心が非常に豊かになったのかも知れません。小さいときの経験が役に立ったのでしょう。

それからそのときは、主人が亡くなって遺された出版社で何を出版しようかと必死に考えていた、そういう求める心があったから、すっとこの本が入ってきた。ちょうど時期的にも私の小さい頃からの心、感性に合うものが入ってきた。これは面白いと思った。だから出版したいと思った。それが成功したのはまた別の話ですね。失敗する可能性だって十分あったんです。

「外国で売れてても日本で売れない本は結構あるんだ、こんなに長い児童書は売れませんよ」というネガティブな意見もあった中で、失敗したときは失敗したときのことだと思って、私はこの面白さを十分に伝えて、とにかくいい本をつくろうとしただけで、結果的にそれがうまくいったから、「見る眼がなかった」と言われるより「見る眼がありました」と言われる方が、まあ、うれしいですけど、自分では特別な見る眼があったとは思っていません。求めていた時期に重なって、面白いと強く思ったから私の手に入ったんだと思うんです。

でも、最初に言ったように、私個人のことは別として、やっぱり「目利き」というのは存在すると思うんです。これは評価が結果的に悪くても、それでもこれを選んだのは正しかった、と言えるような、そういう「目利き」はいると思うんですよ。そういう人たちは、評価に左右されないで「好きなものは好き、いいものはいい」と言うと思うんです。そのときの流行に左右されないでそう言えるのは、やはり長年の経験に裏打ちされた知恵、考える力があるからでしょうね。

-今回ハリー・ポッターは結果として一大成功ということで。

 まあビジネス的には成功したと言えるでしょうね。

-そうなると外国の出版社からオファーがありませんか。

 ありますよ。外国に限らず自分の本を出版したいという人たちが、売り込みをしてきています。私が全部読むわけにはいきませんから、一応リーダーもいますし、日本語版の場合は編集者がざっと読んで対応することにしています。

今現在ハリー・ポッターが終わるまで私は本当に余裕がありませんでしたので。たまたまいくつかあったオファーの中から、これは良質な本だ、と私の目に留まった本の出版を始めました。コニー・ライオンハートという少女が主人公の四部作シリーズで、その第一巻の「サイレンの秘密」という本をこの間出したばかりです。

でもその種類の本がたくさん出ている、つまり、いわゆるポスト・ハリー・ポッターの本がたくさん出ている中で、特に目立たないのでしょうか、目覚しい売れ方はしていません。けれどもいい本だと思うんです。だから目覚しい売れ方をしていなくとも、私のその本に対する評価は変わらないんです。

サイレンの秘密
ジュリア・ゴールディング著
静山社刊 税込1,995

私は「目利き」でも何でもないんですが、この作品はいい本、面白い本だと思いました。それをハリー・ポッターと同じ気持ちで、読みやすい本に仕上げて読者にお渡ししたいという気持ちで作りました。だから結果的に片方は何千万部も売れて、もう一方は何万部しか売れないとしても、私はいい本はいい本だ、と思います。読者の目にも留まるようになってくれればいいと思います。

四部作の一部だけ出しましたけど、あと三作についても翻訳権を取っていまして、私自身はまだその翻訳に手は染めていませんけども、二人の翻訳者に翻訳を進めてもらっています。私は、その翻訳を監修するという形で翻訳に責任を持とうと思っています。

 今後、イギリスの児童文学の系統をずっと追っていきたいと思いますし、いい本に出合ったら十分に出版を考慮していきます。同じ系統の本の版権をすでにいくつか取っていますので順次出していきたいと思いますし、日本のファンタジーも掘り起こしていきたいと思っています。これからいろんな企画が静山社の本として書店さんに並んでいくと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

-そうするとライフ・ワークが翻訳ということだけではなくて、どんどん新しい本を紹介していくということに変わっていくというわけですね。

 そうですね、静山社の責任者として。責任者だからということではないんですが、元々私の亡くなった主人が静山社という会社を興したときに、本で社会に貢献したい、という気持ちがありましたので、私も物を考えるために本は必要だという考えで、やっていきたいです。良い本を出すことが社会の役に立つと思っています。その意味で静山社を通しての出版をずっと続けていきたいと思っています。まずはイギリスの児童文学を紹介していくということから始めようと思っています。

-それでは最後に「死の秘宝」についてお話いただければ。

 もう英語で読んだ方はすでに結末が分かっているわけですけれど、英語で読んだ方も日本語で読むと一味違う内容の深みを味わっていただけるように、翻訳を練り上げました。

第七巻というのは一巻から六巻まで日本語で読んでくださったかたが、ああこういうことだったのか、とすべての謎がふっと腑に落ちるような、納得するような、そういう結末が詰まった本です。たとえば、ハリーの額の稲妻形の傷の謎が一巻からずっとつづいていますでしょう?あの謎が解けます。そういう意味ではサスペンスの最後の一幕という感じがしますね。

でも、今までの巻にあった面白さは変わらず、第七巻にもあります。やっぱり人物が面白いです。ハリーも十七歳になってきますと人物の絡みも複雑になって、ますます面白くなってきますし、魔法の小道具も相変わらず冴えています。

今までどおりの魅力を持ちながら、同時に、七巻の中で五巻目に続いて二番目に長い物語の結末として、十分に納得いたしました、と言える結末になっています。また、同時に、ずいぶんいろんな人が死にます。それで泣きます。何度も泣きます。

だから泣いてください、笑ってくださいという感じです。楽しめます。保証します。

-ありがとうございました。「ハリー・ポッターと死の秘宝」の発売を楽しみにしています。

ハリー・ポッターと死の秘宝 

税込3,990

【限定版・予約受付中】
吟遊詩人ビードルの物語(原書)
 

吟遊詩人ビードルの物語(原書).jpg 
税込1,1000円

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