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-丸の内本店をご覧になってどんな感じでございましたでしょうか。
天井が高くてものすごくすっきりした感じがしますね。直線的で、変に奇をてらってなくて、ちゃんとした図書館に来たような感じの、縦にピシッと上がった書架があって、配列があって。
変に奇をてらったお店は迷うんですよ。「ああ、ここは迷わないな」という感じがしたので、それが一番印象的でした。そういう点では、とても見やすい本屋さんかなという感じがしましたね。
-ありがとうございます。では、いつもご利用の書店というか、ここが気に入っているなというような場所はどんな雰囲気ですか。
やはり書店というのは基本的には一定の区分がされていて、それぞれのところにきちっと整理されているっていうのが入りやすくていいなという感じがします。だから丸の内本店も、最初に入って「あっ、ここ、分かる!」という感じがしたので、そういうところが一番好きですね。
あとは、極めて基本的なことですけど、どこに何があるという案内と本当の書架がずれてない。これは当たり前のことなんですが、結構ずれているとこがあるんですよ。だから、そういったところがきちんとしている本屋さんが好きですね。
-香港の本屋さんどんなところに行かれますか。
いっぱい行っていますよ。中環(Central)の三聯書店、これはもう老舗中の老舗ですから、一時期はフロアの棚の配置を覚えていたぐらいです。もともと根っこは大陸の本屋さんですから、大陸系の書籍も地味なものも含めていっぱいあるし、二、三階辺りには、「香港現代」みたいなコーナーがあって。これは返還のころに地元の方が、自分たちの香港ことを見つめるっていうトレンドがきっとあったんだと思っているんですが、香港に関する本がすごく増えたんですね。しかも良質な本が。ですからそのコーナーは行けば必ず寄ります。それから、銅鑼灣(Causeway Bay)にある商務印書館、あそこも必ずといっていいほど寄りますね。
あとは、洋書なんだけれどもページワンというところが割と遊び回るのには好きで、結構ペーパー系のグッズがあったりして、そこを見ますね。
それ以外だと、「2階の本屋さん」という「二楼書店」と書くんですがビルの階段を上がっていくと独立系の小さなショップがすごくいっぱいあって、そういうところへ行くと小さい分オーナーの趣味がはっきり分かる本屋さんがあります。実際は2階だけじゃなくて3階もあるんです。要するに、賃料が安いからたくさんできたんだと思います。今でもありますけど、ちょっと流行のピークは過ぎたのかも知れませんね。
あとは銅鑼灣の時代
廣場
(Times Square)のそばにカフェと完全に合体した小さな本屋さん。これは面白いですよ。大陸の本なんかも置いてあって、何かちょっと文化大革命のイメージをちょっとノスタルジックにやったようなイメージで、そこはうっかり入ったんですけど、とっても面白かったです。コーヒーを飲んでいたら、気がついたら書店だったみたいなね。
ですから、ただひとつ困るのは、行くと面白いんでいろいろ買っちゃうんです。紙って重たいですよね。スーツケースの超過ぎりぎりみたいなことがよくあります。本当にでっかい本を買って。あと最後に政府刊行物(
政府新聞處刊物
)
のコーナー。これは時々いいものが出ますので、最近ちょっと行っていないですけど、そこも面白いと思います。
-地図などは。日本ではなかなか手に入らないんですが。
イギリス植民地だったせいもあると思うんですが、香港政府は地図をものすごくいっぱい出しています。いろいろ縮尺、いろんなバージョンで。たとえば、佐敦(Jordan)駅の北側に、政府の地図販売所(九龍地圖銷售處、九龍油麻地彌敦道382號)があります。香港全図とか、九龍だけでも相当大きいものが手に入ります。航空写真の大きなものもありますから、お勧めスポットです。
-小柳さんは香港ファンにはおなじみの『香港巴士鐵路旅遊協會』というサイトも開設されていますが、インターネットではなく、なぜ本なんでしょうか。本とは何でしょうか。
難しいですね。僕はペーパーメディアがすごく好きなんです。すごく素朴なことをいうと目が疲れない。それから、電源がなくても、装置がなくてもスッと読めて。これはやはり人類が少なくとも千数百年間使ってきたものですから、電子デバイスが出ても、電子デバイスが嫌いなわけじゃないんですけど、やっぱり紙との親和感を感じます。電子デバイスはハードに振り回されていますよ、まだ文字とか色とかね。本は紙という媒体に振り回されてないですよね。だから、とても人間がスッと入りやすい。もちろんハンディで、いつでも持って読めるということもあるので、紙のメディアだっていうことが非常に重要なことじゃないかなという気がします。
-思い出深い本があればご紹介ください。
自分が書いた本としては『香港のりもの紀行』のタイトルで1997年、たまたま香港返還の年に出しました。もちろん自分が本を初めて出すというのですごい緊張感もありました。
ある人生の先輩の方に言われたんですが、「小柳君って、あのとき以来、スタイル変わってないよね」と言われたんです。
やはり僕が書いている対象は旅ですから、何か対象を見て感じたものをアウトプットしていくスタイルで、「文章のスタイル」という意味ではないような気がするんですが、驚き方のスタイルみたいなものが、「あまり変わってないよ、君は」って言われて、初めはがっかりしたんですね。でも冷静に考えてみるとうれしいことでして幅や濃度は少し変わったかもしれないんですけど出会ったり驚いたりしたりしたものの驚き方、アウトプット、表現は、きっと変わってないんだと思うんです。多少上手になったかもしれませんけど。だから、結構かぶっているところありますから、これは自分としてはとても楽しかったし、今でも印象的ですね。
自分のじゃないとすると、香港では山口文憲さんの『香港旅の雑学ノート』です。初めて香港に行くときに何となく買ったんですね。83年だから、今から25年ぐらい前ですね。僕はあの頃旅行に行くと、今でもそうなんですが、ガイド的なものよりも、その街について書かれたものを先に探すんです。旅行ガイドは必要ですが、そうじゃなくて紀行文のようなものをたくさん読んでから行きます。
だから関川夏央さんの『ソウルの練習問題』を買ってからソウルに行ったし、香港はやっぱり『香港旅の雑学ノート』を買ってから行ったし、というようなことをずーっとやって、多分香港はその原点になるんです。山口文憲さんはすごくいい視線でご覧になっているのでものすごく影響を受けました。
逆に、沢木耕太郎さんの『深夜特急』は読まなかったんです。ずーっと読まなかった。なぜかというと、全然嫌いじゃなくて、その後、読みましたから大好きなんですけど、多分劇薬だろうなと思って。
沢木さんが、「旅には、その時期、タイミングがある、26だ」とよくお書きになっているんですね。あの本は僕は早く読まなくてよかったなと思って。旅を真似する恐れもありましたからね。多分40過ぎてから読んでいると思います。あの本はそれぐらいになってから読んだほうがいいと思いますよ、そういう意味では。思い出に残るいい本なんですけど、若いころ読まなくてよかったなとすごく思っています。
他にも龍陽一さんの『香港無印美食』は「茶餐廰」というのを日本できちんと初めて知らしめた本ですよね。また邱永漢さんの「香港」。これは戦後香港の原型を示した名著です。日本語版と中文版を何回も読みました。味わい深いです。
それから文憲さんの『香港世界』。好みで言うと『香港旅の雑学ノート』より、こっちのほうを愛しています。何十回読んだかわからない。こちらの方がウエットですよね。『香港読本』も良いですね。これも文憲さん、さすがで、目配せよくいろんなものを拾ってきているから面白かった。本当に何回読んだか分からないですね。
あと、もう一冊挙げたいのがあって、一冊じゃ済まないんですけど、香港で買った、『香港街道命名考源』というタイトルで、香港の学者に近い方、政府で測量みたいなことをやっていた方が香港の地名、道の名前の成り立ち、中国語と英語との関係みたいなことを説明した本でとっても面白い本です。
なぜこんな名前がついているのか、それは当時100年前の官僚がやはり英語の理解が浅かったから、逐語訳したから、英語の、本当のイギリス人がつけた地名と違う間違った地名がいまだに生きているんだとか。Queen’s Roadをどうして「皇后」というのか、これは誤訳であると。「皇后」というのはクイーンじゃない、「女王」であると。もしくは、「女皇」であろうと。誤訳なんだけどもはや直せない、こういったことが載っています。面白いです。
-それは今でも手に入るんですか。
分かりません。香港に行って、いい物を見つけたらその時に買わなきゃだめなんです。次に行くともう見つけることができないですから。その手の本は何冊かあるんですよ。その中で一番いいやつです。でも、僕が手に入れたのは、もう返還前ですから、もしかすると出版されていないかも知れません。
-次に、いよいよ『香港路線バスの旅』についてお伺いします。まず、執筆のきっかけは。
今回は、これをものすごくやりたかったんです。
旅行ガイドは初めての方、2回目ぐらいまでの方には役に立つんですが、ガイドブック一冊の厚さで一つの街のことを全部書くのは無理があって、ほとんど入門コースなんです。「ディープなことを突っ込みました」と書いてあっても、それはある種ディープがちょっと添えてあるだけなんです。そうじゃなくて、5回目の人にも10回目の人にも、初めての人にも、「香港はいいんです」って伝えるためにはどうしたらいいかとずっと考えていたんです。
そうすると、何をするかというと、ベーシックなことは、「4日間どうするか」ということなんです。4日間、現地のツアーに入ってガイドさんのいう通りに動くと自分がどこに行ったか覚えていないじゃないですか。だから、ご自分の足で歩きましょうと。
香港は全然怖くないしものすごく交通が便利だし。だから、これ『路線バスの旅』って書いてあるんですが実は旅の本であってバスの話じゃないんです。
電車でもいいんですが、香港は際立ってバスが発達しているので自由に動いてみましょうと。そうすると、こんなにすてきな街に出会うんですよということを路線バスという切り口で書きました。だからこれは旅行ガイドなんです、極論するとそういうことです。だけど、こういう普通の旅行ガイドと違うから、「ガイドブック」って言っちゃうと誤解があるので。
持っていく必要はないので、これを見て「あっ、じゃ、今度あの街へ行こう」ということを伝える何かがもやもやもやっとしていたんですよ。それで、自分の頭の中でかなり整理して出版社にポーンとぶっつけてみたら、「いいじゃん」って。まあ一発勝負じゃなかったんですけど「いいじゃん」って言ってくださったので。
つまり、2回目の人も5回目の人も10回目の人に対しても、香港行ってみたいね、こんなところあるんですよと伝える、その媒体になるもの、メディアになるものが路線バスだったと。だけど本質的には、自分で動き回るんですよ。そのためにはこれがいいですよということを皆に紹介したかった。その話を持ち込んだら、やってやろうじゃんと言って下さったので。
-時間的にどれぐらいかけられましたか。
これはね、格好いい言い方をすると、今までいろんなところに行っていてコンテンツは全部頭の中にありましたから物理的に書く時間だけだったんです。
最終的には今年の7月にフィニッシュで行きました。それはもう最終確認なんです。香港は変化スピードが速いので、全部バスに乗って自分の目でチェックして、あっ、やっぱり違っていたとかってあるんですよ。お店が変わっていたり。もう20年ぐらいずっと同じ場所にあって、もう思い込んで書いていたのにランドマーク的なちっちゃ店がなくなったって、ほんとびっくりしたんです。だけど、集中的に書いていたのは12月から、春だから4カ月ぐらいですかね。その後は、もう並行で推敲が始まってきていますから、物理的に書いていたのは、きっと4カ月ぐらいですね。
僕はさっき電子デバイスの話をしましたけど、これは全部原稿用紙で書いているんです、いまどき。原稿用紙と万年筆だと、このバッグに入るんですよ。仕事で1時間ぐらい列車に乗るときってあるでしょ。それ以上もありますよね。それから通勤電車の中で書けるんですよ。そうすると、さっき言ったみたいに、物理的に書けばいいわけです。頭の中に全部あるんだから。だから20分でダーッと紙に書いて、で、紙のレベルで推敲して、で、パソコンに入れて、パソコンで何回も何回も推敲しているんですから、パソコンに入れる段階では、ほぼ固まっている原稿になっているということの繰り返し。だから時間でいうと4カ月ぐらいかな。少し後で書き加えているのを入れるから、そこを正直にいうと6カ月ぐらいかなって、こんな感じです。
-何回分の香港旅行が圧縮されていますか。
50回分です。50回行ったから50回分濃縮です。だけど、ずっとバスに乗っていたわけではないので20回分ぐらいかな。
-街歩きされるときの必須ツールは。どんなものをお持ちになっていますか。
一つ目は香港の地図帳、『香港街道地方指南』。これはもう圧倒的な道具です。コンパクトにできていて(19×11.8cm)、そしてまじめにインデックスがここまで充実して、で、基本的にはバイリンガルで、まあ、すごいと思います。毎年出版されていて(2009年版はHK$60)、コンビニなど香港中いろいろなところで売っています。
それから、二つ目が「トラベラーズノート」。これは面白いんです。香港でもどこでも、まあ基本的に香港ですが、行こうかなあと思って、「行こうかな」の濃度が例えば10%ぐらいになると、文具屋さんに行って買うんです。それが30%ぐらいになると、表紙に「香港」って書くんです。だからこれは何十冊もあります。昔は普通のノートを使っていましたが、これが発売されたときにすぐに買って、以来、カバーにはめて行くというのを繰り返しています。
三つ目はデジカメ。昔はフィルムのカメラですけど今はデジカメ。デジカメのメリットは、僕は写真が好きなわけでもないんですが、これ(表紙)は僕の写真なんですよ。割と気に入っている写真なんですけど、そんなにうまいわけじゃなくて、何がいいかというとですね、時刻が全部残るので電子メモにもなるんですよ。
実はこのトラベラーズノートに絵地図を書くんです。絵地図というのはどんなものかというと、「茶餐廰で朝9時から食べた。23ドル」とかって書いて、次、こう行って、こう行ってと線を引いて。絵地図を描いてどんどんページが進んでいくわけ。それで、どこで何食べた、何買ったと記録を取っていくわけです。
こうやって描いていくと、後で、カメラにある時刻データと、自分が時々ノートに書いてある時刻とつき合わすと全部復元できるんです。だからこういう本が作れちゃうんですね。それは本のためにやっているんじゃなくて、僕、昔からそうなんですよ。旅というのはなぜか絵地図で記録しているんですね。
四つ目は、すごくありきたりですけどボールペン。ボールペンは、できる限り4色を持っていきます。つまり絵地図を書くときに混乱しないように。
それから、五つ目は八達通(オクトパスカード、交通ICカード)だと思いますね。その本の中に載っていますけど、僕は時計型オクトパスを使っています。
-『香港路線バスの旅』のお勧めポイントは?
本としてはですね、これって単純な構成で1章、2章、3章しかないんですよ。2章はすべて路線の紹介なので、これは好き嫌いより目的地のお勧めになるので、やっぱりトップの、短いですけど第1章に、バス停のことをこんなに延々と書いている人はいないと思いますし、それから昔、二階建てバスの2階の一番前なんか乗る香港人はいなかったということを今の若い人たちは知らないと思いますので、そういったことを、ここだけはさっき言ったみたいに「こんなに香港いいんですよ」って言いつつ、自分の言いたいことばっかり書いているので、そういう意味では第1章、短いですけど、ここは読んでねっていう感じはします。第2章は、お好きな路線から前後を自由に行ったり来たりしていただければいいんですけども。それから、もう一つ入れるとすれば、一番後ろのほうにあるバスの規則の話。これも全く役に立ちませんけど、読むには楽しいかなと感じはします。
-6ページから7ページにかけて彌敦道の油麻地から旺角までのバス停の配置が書いてあります。このアイデアは。
7月の最終チェックで、現地で思いついたんです。本文にこれに類することが書いてあります。もうバス停が連なって次のバス停まで全部つながっているから、どっからどこまでかわからない、というようなことが数カ所に書いてあります。気にはなっていたんです。
7
月に最終チェックで現地行っていろいろなバスに乗ってかなり激しく動き回って、もう、かなり疲れて、夜、彌敦道まで戻ってきて、旺角に戻ってきて疲れたから帰ろうかなと思っていたんですが、あっ!と思って、ずっと並ぶバス停と番地や出入りの道路名をずーっとメモしていきました。すごく暑くて蒸し蒸しした夜でしたけど。
ここは、どこまでが油麻地で、どこからが旺角か分からないぐらいバス停がずっと並んでいます。これは、バス停に詳しい『通用乘車地圖』より僕の地図のほうが詳しいですよ、バス停が全部書いてありますから。『通用乘車地圖』は、その付近のバス停を集約しちゃっています。それから、このクロバン(列を分けるための補助標識)、これは表現されてないんですよ。このクロバンが主になる赤いバス停のどっち側にあるかまで表現されています。これは自分で言うのも何ですが、異常に精密です。ですからこれは思いついてよかったです。
-では、紹介されているルートの中でお気に入りのルートはどれですか。
一番最初に書いてある、九巴12番というバスで、大角咀(Tai Kok Tsui)を経由します。ここは英語名もTai Kok Tsuiと単に中文の音訳なんですね。これは何がいいかというと前半はキラキラ光る尖沙咀から走って、突如として最後の15年ぐらいで埋め立てたところへ飛び込むんで、そこへ入った瞬間に九龍とは思えないピッカピカのマンション群に入るわけです。それが奥海城(Olympic City)です。それから奥運(Olympic)駅を過ぎると1960年、1950年のにおいがプンプンする大角咀に飛び込むんです。
このバスはもう少し先まで行くんですが、僕は大角咀で降りました。そうすると、地味な鉄工所だとか、リサイクル回収屋さんだとか、鉄の素材屋とか、そういう埃をかぶったような町が目に飛び込んでくるので、初めての人じゃなくて数回目の人は、ぜひここに行っていただきたい。そして残念ながら多分なくなっていく町並みですから。そして、実はこの項目が、この本をつくることとなったきっかけの原稿でもあるんです。
他にもいくつかあって、香港に住んでいた人も「ほおー」っていうのが、カラーページにも入れたんですが、
鑽石山
(Diamond Hill)から、めちゃくちゃきれいな清水湾(Clear Water Bay)に行くルート(九巴91番、95ページ)。海しかないんで海を眺めるか泳ぐしかできないんですけど、こんなきれいなところはなかなかないです。たった30分のバスで。これはお勧めだと思います。海があるだけだからあまり面白くも何ともないんでツーリストはあまり行かないんですけど、車窓から見える風景が美しいので、これはすごく楽しいと思います。
もう一つは、山道(Hill Road)を通る城巴90B番。これはすごくいいです。本文では「都会のウォータースライダー」と書いてあるんです(48ページ)。これはびっくりします。
山道はたった1車線の下りだけの通り。香港島の西側はものすごい急坂の町で、そこを上の方からスコンと落ちるように走るので。これはどこからどこへ行くのを抜きで一度乗ってみると面白いです。しかも2階建てで乗ると怖いですよ。2階建ての上だと視線が高いので、かなりびっくりします。これはお勧めです。しかも、電車が好きな人は、この真上からトラムにしては珍しく複雑な大きな駅が見えますから、本当にこれはお勧めです。
90B番はスタートが鴨
脷
洲
(Ap Lei Chau)という島で香港仔
(
Aberdeen
)
を通ってきます。その辺は漁船がいっぱいいて、海の物を食べる素朴なレストランがあったりするエリアです。それを見た後、西回りで香港に戻ると、すごくいい風景が見えます。遠くに海がキラキラ輝いて見えて、大自然、山の中腹を抜けて、フッと香港の喧騒が見えてくると今の山道の高架道路をピューッと抜けますのですごく気持ちがいいですよ。
-では今度は小柳さんがお気に入りの場所というのは。
湾仔(Wan Chai)。湾仔という町は、その本にもちょっと書いたんですけど、湾仔だから、「仔」は「小さい」という意味ですけど、もともと湾だったんです。深い湾だった。香港が植民地になった19世紀の中ぐらいからずっと埋め立てが続いて、その深い湾が全部埋め立てられて、両側にやや出っ張っていた銅鑼湾(Causeway Bay)と中環(Central)と海岸線がほぼ直線になったわけです。
帯状に町の風貌を変えてきているので、湾仔に着いたら一番奥の皇后大道、昔から陸地だったところから北の埋立地に向かって歩くと街が帯状に変わっていきます。これがものすごく面白いです。僕は“街の輪廻”って名前を付けたぐらいで、なぜかというと、一番古いほうが逆に新しいところがところどころあって、北の方はピカピカの超高層ですけど、南の山側が再開発されてまた新しくなり始めています。
香港がイギリスに占領されたのは1841年で、すぐに埋め立てが始まっています。もともとは皇后大道(Queen’s Road)が海岸通りだったんです。この辺りの埋め立てが終わるのに50年かかっています。だから1890年ごろは
莊士
敦道(
Johnston R
oad
)が海岸線だったのだと思います。
莊士
敦道
というのはトラムが走っています。地図で見るとよくわかりますが、
莊士
敦道の
トラムの路線がこう曲がっているということは、1904年のときはここまで海だったんですね。もしくは埋め立て中だったんです。トラムは1904年の開通ですから、ここが埋め立てられて10年ぐらいたってトラムが走っているわけです。それから軒尼詩道(Hennessy Road)まで埋め立てられて、ここは多分20世紀前半だと思います。さらに北の駱克道(Lockhart Road)まで埋め立てられた。
ここがまた面白くてネオン怪しいバー街なんですよ。客引きにつかまっちゃだめよ、みたいなところです。ちょっとエッチっぽいネオンもあるぐらい。
なぜここはそれで納得するかというと、きっと当時は小さな埠頭がいっぱいあったはずですから、ここら辺は戦前から戦後少しにかけての海岸通りだったはずなんです。そうすると、いわゆる波止場のバーエリアだったはずなんです。それが化石のように今でも残っているわけです。それで海はどんどん埋め立てが勝手に進んで行ってしましって、1970年ぐらいには、さらに海岸線が北に移って、80~90年代は高層ビルがバンバン建っているんです。もう今の海岸線はつまらないです、ビルばっかりで。そして、
會議道
(Convention Avenue)で終わっていたものが突き出してこれが香港返還式典会場となった「香港
會議
展覧中心新翼(HK Convention & Exhibition Centre New Wing)」、です。それで香港返還を迎えた、という感じがよくわかります。
猥雑なこの辺、すごく地元っぽいところ、それは、もうコテコテの庶民の町があって、一番外側に行くと役所とかオフィスがあって、夜になるとちょっとつまんないなというのが待っているという、立体化した湾仔が面白いと思います。自然というのを抜きにして街歩きどこが面白いかというと湾仔が面白いです。
-では、話は変わって、好きな言葉を教えてください。
実は、この本の帯を取ると「ロ係
香港,搭巴士去邊度都好!因爲巴士服務日日
進歩」(香港ではバスならどこに行くにも好し、バスサービスは日々進歩しているから)と書いてあるのが見えるんですが、この「日日進歩」。これは自分が前向きに生きているわけでも何でもないんですが、多分最初の頃、香港に行ったときに、このKMB(Kowloon Motor Bus Company、九巴)の二階建てバスにキャッチフレーズで書いてあったんです。実はKMBのバスに昔から書いてあったわけじゃなくて、多分70年ごろから書かれ始めたんですが、「九巴服務日日進歩」(九巴のサービスは日々進歩する)。妻と笑っちゃいましてね。「どこが進歩するんだ、こんないい加減なおんぼろバスばっかりなのに」と思っていたら、20年経ってみると確かに間違いなく進歩しているんですね。
日本人みたいにストイックに考えずに、香港は力が抜けていて、まあ、キャッチフレーズみたいに「日日進歩」って言っていると何年かたつと進歩するし、という調子で、世界最先端の都市をオペレーションしているちゃんとしたものがあると同時に、あまり肩ひじ張らずに何かあまりギスギスしてストレスを感じなくても回っている街が僕は大好きなんです。そういう意味で、この「日日進歩」っていうのを軽く言い続けているのっていいなあと。だから、ちょっと前に流行った「無問題(モウマンタイ)」じゃないんです(笑)。
-日々何をしているときが一番楽しいでしょうか。
『香港街道地方指南』を見ているときでしょうね。やることがなくなると、読む本がなくなると、これをかばんに入れていますよ。で、こうやってボーっと見ています。
-最後に、読者にひとことをお願いいたします。
本にも書きましたけど、香港は狭いんですが路線バスがものすごく充実しています。なので、ここにモデルコースみたいに書きましたが、これにこだわらずにポッとバスに乗ってみてください。最近はとても案内がよくなったのでバスに乗って、知らないところに行ってみたらいいと思います。僕がスタートしたのもそれでした。たまたま乗ったら、すごく不思議なところにバスが行っちゃって。
バスが連れていってくれるところに行くという旅は、まあ、これはまねをする必要は全くなくて「行きたいな」と思っていただければいいので、適当なところでバスに乗って終点まで行く。途中で降りちゃってもいいです。それで、飽きたら、同じバスの逆方向に乗れば必ず帰ってこられますので、ぜひそれをお勧めします。
-ありがとうございました。
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