海の沈黙 星への歩み (岩波文庫 赤 565-1) (文庫)
ヴェルコール (著), 河野 与一 (翻訳), 加藤 周一 (翻訳)
価格:525円(税込)
出版社: 岩波書店 (1973/2/16)
ISBN-10: 4003256514
岩波ホールセレクション vol.1「海の沈黙」「抵抗」特集海の沈黙〔物語〕
原作 海の沈黙 星への歩み (岩波文庫 赤 565-1) (文庫) ヴェルコール (著), 河野 与一 (翻訳), 加藤 周一 (翻訳) 1941年、ドイツ占領下のフランスの地方都市。1人の老人が路傍に立ち、この6ヶ月間に起こった出来事を回想する。 ある冬の日、姪と暮らす老人の家に、2人のドイツ兵が訪れた。ドイツ軍将校のために、部屋を提供させるためだった。そして3日後の夜、ドイツ将校ヴェルナー・フォン・エーブルナックが現れた。彼はフランス語を流暢に話すことができた。同居することの非礼を丁重に詫び、「自国を愛する人を尊敬する」と述べる。姪は無言で彼を2階の部屋に案内をした。彼は片方の足が不自由で、床をひきずる音を響かせていた。 それからの日々、ヴェルナーは彼らへの敬意を込めて、礼儀正しく振舞うが、老人と姪は互いにヴェルナーが存在しないかのように振舞う。毎夜、ヴェルナーが「おやすみなさい」とひとこと言うまで、家を長い沈黙が支配するのだった。 1ヶ月過ぎた寒いよる、ヴェルナーはずぶ濡れになった軍服から私服に着替えて現れた。彼は暖炉の火にあたりながら、話しはじめる。彼は作曲家で、父親の影響を受けて、幼少の頃からフランス文化に憧れていた。そして父親と同様、ドイツとフランスが「結婚」することによって優れた文化融合が生まれ、この戦争が両国に良い結果をもたらすと信じていた。美女のキスで野獣の呪いがとける「美女と野獣」の物語にたとえて、美女はフランス、野獣はドイツで、ドイツの残虐な性格を直すには、両国の相互愛しかないという。またある日は、居間のオルガンでバッハの前奏曲を演奏し、「バッハは人間離れしているが、自分は人間の音楽を書きたい」と語った。 シャルトル大聖堂を砲撃したことも彼にはつらい任務だった。毎夜、そのように1人語り、老人と姪は沈黙で答えた。ヴェルナーは2週間の休暇に、初めてパリを訪れる。しかし町に帰ってからは、これまでのように居間に姿を現すことはなかった。 ある夜、ドアをノックする音に、老人は思わず「入りなさい」と答えた。姪は胸を高まらせる。ヴェルナーは軍服に身を包んで現れた。そして「この6ヶ月間、私の話したことは忘れてください」と切り出し、パリでの体験を話しはじめた。 彼は将校クラブで、久しぶりに仲間と会い、詩人だった友人からは、楽しげに1日に2000人殺せるガス室の話を聞かされた。その言葉に対し、自身の理想をのべると、彼らはドイツによるフランス占領は両国の美しい融合などではなく、フランスを根こそぎ叩きつぶすためだという。ヴェルナーは、ナチスの残虐性を当然のように語っている将校たちの言葉に絶望し、町に帰っても、人々の視線に耐えることができなかったと語る。そして明日この家を去り、戦場へ向かうことを決心したことを老人と姪に告げる。就寝のとき、いつもの「おやすみなさい」とともに「アデュー(さよなら)」と言った。姪も思わず「アデュー」とつぶやく。 翌朝、ヴェルナーは家を立ち去るときに、机の上に置かれたアナトール・フランスの本に気づく。そこには「罪深き命令に従わぬ兵士は素晴らしい」と書かれた記事がはさまれていた。老人が彼に贈った言葉だった。 |